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仙台地方裁判所 昭和34年(ワ)214号 判決 1960年9月06日

原告 梶原福太郎 外一名

被告 仙台市

主文

被告は原告梶原福太郎に対し、金三十万六千円、同梶原つやに対し金二十九万円及び各原告に対し、右各金員に対する昭和三十四年五月一日より支払済にいたるまで年五分の割合による金員を支払え。

原告等のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを五分し、その四を原告等の負担とし、その余を被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は「被告は原告梶原福太郎に対し金百五十六万三百三十七円、同梶原つやに対し金百四十七万二千二百六十三円及び各原告に対し右各金額に対する昭和三十四年五月一日より支払済にいたるまで年五分の割合による金員を支払え、訴訟費用は被告の負担とする」との判決及び仮執行の宣言を求め請求原因として、

一、訴外亡梶原次郎は原告等の二男であるところ、同人は昭和三十三年十二月九日午後九時頃第二種原動機付自転車を運転して勤務先の仙台市連坊小路二百四十三番地大和電気株式会社から仙台駅前方面に向う途中、同時刻頃同市東五番丁七番地先舗装道路を通過しようとした際、同所にあつた直径約一米「深さ約十五ないし二十糎の道路欠壊部分に前記乗用車の前輪を嵌落させたため、操縦の自由を失つて路上に転倒し、因つて頭蓋底骨折のため同月十日午前九時頃同市元寺小路岩本病院において死亡するにいたつた。

二、被告は地方公共団体であり、前記道路の管理者でもあつて、道路の管理者としては所轄内道路を常時良好な状態に保つよう維持修繕等をするとともに万一道路に破損、欠壊個所等がある場合においては区域を定めて交通を制限又は禁止する等して一般交通に危険を及ぼさないよう道路を管理しなければならないのにかかわらず、被告は前記道路の欠壊部分の修繕をなさず、又附近の交通を制限する等の措置もとらなかつたために遂に右訴外人をしてその乗用車の前輪を右欠壊部分に嵌落させ、転倒死亡するにいたらしめたものであつて右訴外人の死亡は被告の道路管理の瑕疵に基くものである。

三、右訴外人は本件事故により次のとおり損害を受けた。

イ、本人着用の衣類等の損害金二万千七百六十円

右訴外人は当時皮ジヤンバー、ズボン、毛製シヤツ二枚、ズボン下、カーデイガン、帽子、皮手袋等合計二万一千七百六十円相当の衣類等を着用していたが右は多量の出血のため汚染し、或は治療のため切開破損して使用不能になつたため頭書金額の損害を受けた。

ロ、第二種原動機付自転車の修繕に要した損害金二千七百二十円

事故発生当時右訴外人は自己所有の仙台市(は)三一三八号第二種原動機付自転車を運転していたが本件事故によりその前照燈、前輪等に修繕費二千七百二十円を要する損傷を受けた。

ハ、得べかりし利益の喪失額百九十二万四十六円

右訴外人は事故発生当時満二十五歳(昭和七年四月三十日生)の独身で、昭和三十一年三月岩手大学を卒業後同年五月頃訴外有山市義とともに大和電気株式会社を設立し、自らその取締役となつて月額一万五千円の俸給を得ていたものであるが、右会社は亡次郎の家族を中心として設立した会社であり、設立後日の浅いことから運転資金の余裕を得るため自ら低額に甘んじていたもので将来昇給する見通しもあつたのであるから将来得べかりし本人の平均収入月額は一万七千五百円とみるべきである。

次に総理府統計局「家計調査」によれば都市別消費支出金額(勤労者世帯)表中仙台市勤労者の昭和三十二年度月平均消費支出金額は五千六百九十三円であるからこの金額を前記月平均収入額より控除するときは一ケ月間純収入は一万一千八百七円となり一ケ年間に通算すれば十四万一千六百八十四円となる。

しかして総理府第九回生命表によれば満二十五歳の男子の平均余命は四十二、〇一年であり、右訴外人は電気関係技術者であるため右期間中労働力を失わないものと解されるので右期間中前記収入を得たものとすればその総額は五百九十五万二千百四十四円に達する。

右金額よりホフマン式計算法により年五分の割合の中間利息を控除すれば得べかりし利益の現在値百九十二万四十六円を得る。

よつて右訴外人は右損害額合計金百九十四万四千五百三十六円について被告に対する損害賠償請求権を取得し、次いで死亡するにいたつたため原告等は右請求権を相続し結局原告両名は各々右の半額たる金九十七万二千二百六十三円宛の損害賠償請求権を有するにいたつた。

四、原告福太郎は右訴外人の死亡により次のとおり合計金八万八千七十四円の金員を支出し損害を受けた。

イ  自動車賃四千八十円。

事故発生後右訴外人の運搬及び連絡等に費やしたもの

ロ  治療費合計八千七百六十四円。

ハ  葬儀費用等合計七万五千二百三十円。

五、次に精神的損害については、原告等は右訴外人の父母として多くの犠牲を払つて岩手大学を卒業させ特に前記会社を設立するにあたつては将来本人をして当該企業の中核とならしめる構想をもつていたもので原告福太郎も現職鉄道弘済会を近く退職して共に右会社の経営にあたるべく予定していた矢先に本件事故が発生したのであるから原告等の受けた精神的苦痛は計り知れないものがあるのみならず、被告は事故発生後何等弔慰の意を示さないのでその慰藉料として原告等において各々金五十万円を請求する。

六、以上のとおり、被告に対し原告福太郎は合計金百五十六万三百三十七円、同つやは合計金百四十七万二千二百六十三円の損害賠償請求権を有するものであるから右各金員及び右各金員に対する本件訴状送達の日の翌日である昭和三十四年五月一日から支払済にいたるまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

と述べた。

被告訴訟代理人は原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とするとの判決及び仮執行の免脱宣言を求め、答弁として、

一、原告等と右訴外人との身分関係及び右訴外人が昭和三十三年十二月十日死亡したこと、被告が地方公共団体であり、仙台市東五番丁七番地先の道路の管理者であること、同年十二年九日当時前記道路上に多少の道路沈下部分があつたこと、当時交通制限の措置を講じていなかつたことは認める。

二、本件事故が被告の道路管理の瑕疵にもとづくことは否認する。

イ、被告は昭和三十二年十一月ごろ本件事故現場の北側に接続している部分を訴外日本舗道株式会社に請負わせて道路補修並びに舗装工事をして居り、更に昭和三十三年十二月当時も事故現場の西側東四番丁道路の舗装工事をして居り、いずれもその際事故現場附近の交通上危険とみなされる個所を修理している。

よつてたとえ前記道路上に多少の損傷個所があつたとしてもそれは自然沈下部分であり、かつ、その後修理したところによれば被告の土木局道路課舗装修理班が直営によつて補修することの出来た深さ約六糎の限度を超えなかつたものであるから何等日常の交通に危険を与える程度のものではなかつた。

ロ、本件事故の発生は訴外亡梶原次郎が飲酒したうえ高速度で運転していたため自ら操縦を誤り転倒することによつて生じたもので前記道路の沈下部分とは相当因果関係がない。

三、その余の事実は全部不知である。

と述べた。

原告訴訟代理人は立証として甲第一ないし第六号証、第七号証の一、二、第八号証、第九号証の一、二、第十号証、第十一号証の一ないし四、第十二号証の一ないし五、第十三ないし第二十一号証を提出し、証人干種行夫、佐藤勝子、菊地武昭、梶原秀子、中島きよ子の多証言及び原告つや本人尋問の結果並びに検証の結果を各援用し、乙第一号証の一ないし九の成立は不知、その他の乙号各証の成立を認め、かつ、利益に援用すると述べた。

被告訴訟代理人は立証として乙第一号証の一ないし九、第二号証の一ないし七、第三号証の一ないし六を提出し、証人今野信弥、落合徳次、伊藤治見の各証言並びに検証の結果を各援用し、甲第一ないし第五号証、第十三ないし第十七号証、第二十、二十一号証の成立を認め、その他の甲号各証の成立は不知と述べた。

理由

一、成立に争いのない甲第二号証、第三号証、第十三ないし第十六号証、証人干種行夫、佐藤勝子、中島きよ子の各証言及び検証の結果を総合すれば、訴外梶原次郎は昭和三十三年十二月九日午後九時頃第二種原動機付自転車(ライトクルーザー、仙台(は)第三一三八号)を運転して仙台市五橋交叉点方面より北進して同市仙台駅前方面へ向う途中、同市東五番丁七番地先のコンクリート舗装道路上にさしかかつた際、市電東五番丁停留所南方約二十七米の地点にあつた穴状の道路沈下部分に前輪を嵌落させたためにバウンドして操縦の自由を失い、更にその北方約八米の地点にあつた同様の沈下部分に前輪を嵌落させるにいたつて全く操縦の平衡を失い、それより約十米北方の地点において前記原動機付自転車もろとも横転して路面に激突しよつて頭蓋底骨折脳挫傷の傷害をうけて翌十日午前九時三十八分頃同市元寺小路岩本病院において死亡するにいたつたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

二、そこで右訴外人の死亡が被告の道路管理の瑕疵に基くものか否かについて判断する。

本件事故現場の道路は市道として被告の管理にかゝるものであること、事故当時現場附近の道路上には数ケ所にわたつてコンクリート舗装が自然に沈下して生じた穴状の道路欠損部分が存在したこと(その大きさ、形状はともかくとして)、当時被告は事故現場附近で交通制限の措置を取つていなかつたことは当事者間に争いがなく、前掲各証拠によれば、本件事故現場の道路は、同市東五番丁交叉点南端より南方に直線となつて伸びるもので、総幅員約二十一米を有し、中央の市電軌道の東西両側には、各々幅員約八・四米の車道が設置されており、南は長町、北は前記交叉点を経て仙台駅及び同市中心部に通ずる交通上の要所であり、なお事故現場西側には日本通運株式会社仙台支店もあつた関係から、車輛の交通量が極めて多く、道路の損傷等を防止するため、附近一帯は当時厚さ約十五ないし十八糎のコンクリート舗装が施されていたものであるが、本件事故の現場には前記認定のように穴状の道路欠損部分が散在し、それらはいずれも西側車道の中央近くに存し、右訴外人が二度目に前輪を嵌落させた損傷個所は直径約一米、深さ約十ないし十五糎のものであり、最初に前輪を嵌落させた損傷個所はこれよりも広く、かつ深かつたもので、いずれも当初はコンクリート舗装に生じた亀裂等による自然沈下の程度にとどまつていたものであるが、そのまま放置されたことによりその損傷の程度を増し、事故発生当時は周辺部より中央部に向つて急角度にコンクリート部分が欠損してすりばち状を呈し、なお、下部はコンクリート下の土面が露出していたものであつて、歩行している者にとつては格別、高速度で疾走する車輌にとつては運転の安全に影響するため迂回を要する程度のものであり、特に比較的操縦の平衡を失い易い原動機付自転車等が高速度で進行して来て前輪を嵌落させるときはバウンドにより一回転して路面に激突するか、或いは回復不能な程度にまで操縦の平衡を失い転倒するにいたることが一見して明瞭な程度のものであつたことが認められ、この認定に反する証人落合徳次、同伊藤治見の右損傷個所の形状に関する証言部分は措信できない。

しかも前掲各証拠によれば、当時事故現場附近は照明燈の設備がなく薄暗かつたうえに、被告において東四番丁の舗装工事中であつて掘り上げた土砂が事故現場西側歩道の東端まで突出して積み上げられていた状況にあり、西側車道を通過する車輌は多く同車道中央部又は市電軌道添いの部分を通過して居たことが窺われるのみならず同道路は制限時速の定めがなく運転者の状況判断によつて相当な高速度による運転も為し得たのであるから前掲の如く損傷個所を中央部に放置するときは、高速度で疾走して来た車輛が誤つて右損傷個所に車体を嵌落させ、危害を受ける危険も十分に考えられたところといわなければならないから、被告においてかかる諸事情を考慮するときは当然速かに損傷個所を修理するか、或いは前記舗装工事をなしていた附近等に標識を掲げ通行車輛の徐行をうながす等して前記危険の発生を未然に防止するための措置を講じなければならなかつたものというべく、右は被告がその所轄内道路を常時良好な状態に維持修繕をなし、もつて交通の完全性を確保しなければならない管理行為の内容に含まれるものと解されるから被告がこれを怠り、欠損個所を放置したため右訴外人が転倒死亡するにいたつた本件事故は後記のような右訴外人の過去を考慮してもなお、被告の道路管理行為の瑕疵にもとづくものと認められこの認定に反する証人落合徳次、同今野信弥、同伊藤治見の各証言は措信出来ない。

もつとも、成立に争いのない乙第二号証の一ないし七、乙第三号証の一ないし六、証人落合徳次の証言により真正に成立したものと認める乙第一号証の一ないし九及び証人今野信弥、落合徳次、伊藤治見の各証言によれば被告は土木局道路課によつて所轄道路の管理を行い、事故現場附近の舗装道路の修復管理は同市の南半分を受持区域とする同課第二係舗装修理班の担当となつていて、同班は常傭職員及び失対人夫を含めて合計十名位で構成され常時担当区域を視察し道路損傷個所を発見した場合には損傷の程度に応じて直接自ら砕石及びアスフアルト乳剤を用いて修復するか、又は土木業者に請負わせて修復させその監督を行う等管理の任に当つていたものであることは認められるが、本件事故現場附近の道路に瑕疵があつたことは前記認定のとおりであり、道路法第四十二条に定める道路管理者の管理義務の内容は、単に一般的に管理の機構を設置し、巡回視察、補修改良等の行為をなさしめることのみにとどまらず、個々の道路の条件にそくし、その交通量の多少、照明設備の有無、制限時速の有無等の特殊性を考慮したうえ、もつて交通の安全性を維持するための諸措置を講じなければならないことを要求しているものと解すべきであるから、かゝる一般的管理を施したことのみによつて被告はその義務を免れることは出来ないものといわざるを得ない。

そうすると、結局右訴外人の死亡は道路の瑕疵にもとづくことが明らかであるから、被告は道路の管理者として原告等に対しその蒙つた損害を賠償する義務があるといわなければならない。

三、よつてまず右訴外人の受けた物質的損害額について考察すると。

イ、成立に争いのない甲第十四号証、第十六号証、証人梶原秀子の証言により真正に成立したものと認める甲第七号証の一および二、甲第八号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認める甲第九号証の一および二、証人梶原秀子の証言、原告つや本人尋問の結果を綜合すれば、本件事故により右訴外人が当時着用していた衣類が出血によつて汚染し更に治療のため切開する等して使用不能となり又前記原動機付自転車は破損したため、結局訴外人において右衣類の代金相当額金二万一千六百七十円並びに原動機付自転車の修理代金相当額金二千七百二十円合計金二万四千四百八十円の損害を蒙つたことを認めることができ右認定に反する証拠はない。

ロ、次に、右訴外人の得べかりし利益の喪失額について考察すると、成立に争のない甲第一号証、第五号証、証人梶原秀子の証言によつて真正に成立したものと認められる甲第七号証の一および二、原告つや本人尋問の結果を綜合すれば右訴外人は当時満二十五才であり、生前身体健全で原告等家族を中心に組織された大和電気株式会社の取締役として働き俸給として一ケ月金一万五千円を得ていたものであるが、その他年二回の賞与をうけ、更に当時右会社は設立後日が浅く運転資金を確保する必要があつたため自ら低額の俸給に甘んじていたもので将来において増額が予定されていたことを考慮して右訴外人の将来に向つての平均収入額は月額金一万七千五百円と認めるのを相当とする。

次に、当時右訴外人は右収入中、生活費として月額金六千円を当時同居していた原告等に支払つていたことが認められ、右金額は総理府統計局「家計調査」の都市別消費支出金額(勤労者世帯)表中仙台市勤労者の昭和三十二年度一人当り平均消費支出額金五千六百九十三円にほぼ近接しているので、右六千円をもつて同人の生活費と認めるのを相当とする。

よつて右訴外人の一ケ年の純収入額は金十三万八千円となることが計算上明らかであるところ、総理府第九回生命表によれば満二十五才の男子の平均余命は四十二・〇一年であり、右訴外人は電気関係技術者であるから右期間内は労働能力を失わないものとして右期間の総収入を計算すると金五百七十九万七千三百八十円であることが明らかであり、右訴外人は本件事故により右金額の得べかりし利益を喪失し、同額の損害を蒙つたものというべきであるが現在一時に請求するのでその損害額はホフマン式計算方法により右金額より年五分の法定利率による中間利息を差し引くべきで、これによれば金百八十六万九千八百二十一円(同未満四捨五入)となることが計算上明らかである。原告主張の金額中右認定の金額を超える部分についてはこれを認めるに足る証拠が充分でない。

ハ、このように結局右訴外人は総計金百八十九万一千四百九十一円の損失を受けたのであるが、ここで右訴外人の過失について考慮すると、成立に争のない甲第十六、第十七号証、証人中島きよ子、菊地武昭、干種行夫の各証言によれば右訴外人は事故当日夕刻より菊地武昭とともに銚子約八本分位の飲酒をなし、一旦勤務先会社へ戻つた後、酒気を帯びていたにもかかわらず再び前記自転車を運転して仙台駅前方面へ向つたものであること、本件事故現場附近はふだんから交通量の多いところであり、かつ当時現場附近は照明設備も乏しく薄暗かつた等諸般の事情を考慮すれば、運転者としても万一の事故を防止するため前方を注視し、かつ徐行する等の注意義務を有するものであつたというべきところ、右訴外人はこれを怠り、漫然附近の歩行者をして危険を感じさせるほどの高速度で通行していたことがそれぞれ認められるのであるから本件道路損傷個所に前輪を嵌落させたことについて右の如き訴外人側の事情も多分に影響したことは充分に推認し得るところであつて結局本件事故を惹き起すにつき右訴外人にも相当程度の過失があつたものというべきであり、この点を考慮すれば被告が右訴外人に対し支払うべき賠償額は前認定イ、ロの損害額のほぼ五分の一たる金三十八万円をもつて相当と認められる。

よつて右訴外人は被告に対し右金額の損害賠償請求権を有するにいたり、次いで、死亡したのであるが、右訴外人には当時妻子がなく、原告等が右訴外人の両親であることは当事者間に争がないからその死亡によつて原告等が右請求権を共同相続し各自その半額たる金十九万円宛の損害賠償請求権を有するにいたつたものというべきである。

四、次に原告福太郎の蒙つた物質的損害額について考察すると、原告つや本人尋問の結果により、真正に成立したものと認める甲第十号証、第十一号証の一ないし四、第十二号証の一ないし五、および原告つや本人尋問の結果と弁論の全趣旨を綜合すれば、原告福太郎は右訴外人の死亡により、死体運搬及び諸連絡の費用として自動車賃合計金四千八十円、死亡迄の治療費として合計金八千七百六十四円、葬式及び仏壇購入費(葬儀料、火葬場使用料、死亡広告料、布施供養料を含む)として合計金七万五千二百三十円を、それぞれ支出したことを認めることができ、右認定に反する証拠はない。そして右原告福太郎の支出費用のうち葬儀費用、仏壇購入費用、布施供養料等も原告等及び右訴外人の社会的地位、職業等に相応した葬儀を営むに要する費用又はこれに附随する費用の範囲内にあるものと認められるので原告福太郎の蒙つた損害は右支出費用の合計額金八万八千七十四円となるのであつて、右損害は被告の不法行為によるものであるから、この賠償を請求し得るものというべきであるが、前記の如く本件事故発生には右訴外人の過失も多分に影響していることを勘案すれば被告において原告福太郎に賠償すべき全額は右金額の約五分の一たる金一万六千円と認めるを相当とする。

五、次に原告等の慰藉料の請求について考察すると、成立に争いのない甲第一号証、甲第二十ないし第二十一号証、原告つや本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第十八および第十九号証、証人梶原秀子、原告つや本人尋問の結果を綜合すれば、原告等は右訴外人の父母として、多くの犠牲を払つて右訴外人を岩手大学工学部を卒業させ、特に訴外大和電気株式会社を設立するにあたつては将来同人をして右企業の中核とならしめる構想を有していた等右訴外人の将来に寄せていた期待は大きいものがあつたうえに、原告福太郎も老年であり、当時勤めていた鉄道弘済会を退職して右会社の経営にあたるべく予定していた矢先に本件事故が発生したものであるから原告等が受けた精神的苦痛は甚だしく大きいものであつたこと。被告は本件事故発生後何等弔慰金等の提供をなして居ないこと。被告は昭和三十五年度才入予算額約二十八億円を有する地方公共団体であること。がそれぞれ認められるがこの他前記の如き右訴外人の過失等諸般の事情を考慮するときはその慰藉料の額は各自十万円と認めるのを相当とする。

六、以上のとおり被告は原告等に与えた物質的損害額および慰藉料の合計額として原告福太郎に対し、金三十万六千円、原告つやに対し、金二十九万円および訴状送達の翌日であることが記録上明らかな昭和三十四年五月一日から支払済にいたるまで前記各金額に対する民事法定利率年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があり、その履行を求める原告等の本訴請求は右認定の限度で正当であるからこれを認容するが、その余は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用については民事訴訟法第九十二条第九十三条を各適用し、仮執行宣言については相当でないからこれを付さないこととして主文のとおり判決する。

(裁判官 中川毅 飯沢源助 小泉祐康)

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